朝日ネット 技術者ブログ

朝日ネットのエンジニアによるリレーブログ。今、自分が一番気になるテーマで書きます。

インボイス制度に対応して1年ほど経ちました

朝日ネットの請求や経理向かいのシステム開発に携わっている8lukaです。今回は、去年の世間を騒がせていたインボイス制度対応について、どんなシステム対応をしたのか、業務の変化と絡めて、一部始終に関わった立場からお伝えします。

インボイス制度って何?なぜ対応するの?

そもそもの話になりますが、まずは消費税についておさらいです。 (以下、インボイス制度のことを既に知っている方は読み飛ばして「朝日ネットのインボイス制度対応の全体像」から読み始めてください。)

消費税の発生

日常生活はじめ物品やサービスを購入すると、ご存じのとおり、消費税が発生します。この消費税は最終的な消費者による購入に限らず、ほとんどの取引で発生します。材料や燃料、通信、卸からの仕入れ他さまざまな購入があります。もし、このすべてに単純に課税すると、取引を中継する回数が多いほど消費税が多重に加算されてしまい、世の中を不便にしてしまいます。(無駄な中継はないほうがよいですが、単に取引への課税のみを行うと有益なものも含めてすべて中継を滅ぼす方向へ向かってしまうか、誰もルールを守らなくなってしまいそうです。)

取引を中継するたび多重に加算される消費税(想像図)

しかし実際の消費税は最終的な消費の取引のみを課税するように設計された制度です。

仕入税額控除とインボイス制度と適格請求書

個別の取引が最終的な消費かどうかの区別をするのは難しいですが、代わりに「何かを売ったときに発生した消費税」を納税する他方で「何かを買ったときに発生した消費税」を納税額から差し引くことで、最終的な消費の取引のみへの課税が実現されています。

仕入税額控除のある現実の消費税

この差し引く仕組みは仕入税額控除と呼ばれています。仕入税額控除の適用を受けるためには、税務署へ仕入を証明しなければなりません。領収書や請求書が該当し、これら証拠となる書面を全て一定期間保存しておく必要があります。この書面(の記載事項)に新たな要件を課す一連の取り決めが、インボイス制度 です。そして、要件を満たす書面のことを適格請求書と呼びます*1

朝日ネットのインボイス制度対応の全体像

朝日ネットには多くの法人顧客があり、当社サービスを仕入として計上し消費税についても仕入税額控除するケースが多くあるはずです。つまり前述のとおり朝日ネットの交付する請求書が適格請求書の要件を満たす必要があります。 まずは当社サービスの請求書の改修に対応するため、開発の出番があるわけです。

顧客以外にも、提携する複数の事業者との取引があります。その精算にあたっても適格請求書の交付を行ったり、交付を受けるようになります。経理はじめ業務部門は多数の対応があります。そんな中、システムが関わる箇所は部分的ではあるのですが、システムの持つデータと精算金額を突合したり、後述する債権譲渡・債権譲受のケースでの仕様変更に対応するため、ここにも開発の出番が意外と多くあります。 以下、個々の項目に触れていきます。

適格請求書の要件と改修内容

請求書の改修においては、大きく分けて、2つの点が重要でした*2

  • 1つは、登録番号(通称「T番号」、この記事では以後T番号と記載します)を記載すること*3。技術的には固定の文言を埋めるだけで特に難しいところはありません。
  • 1つは、消費税率ごとの金額を記載すること。税率や金額等が可変なので*4、請求書の文言やレイアウトといった仕様を各部門と協力して詰めたり、データフローの設計に多少気を遣いました。

適格請求書の要件イメージ

消費税の計算方法と分割請求

消費税の計算方法について、1回の取引で同一税率の消費税の算出における丸めは1度だけ、という制約が課されています。 幸い、朝日ネットの既存の消費税計算方法はこの制約に沿ったものとなっていたため、計算方法の変更は不要でした。但し、分割払いのケースを除いて。

AsahiNet光の工事費などで分割払いでの請求を行い、かつ消費税が発生するケースがあります(発生しないケースもあります)。 インボイス制度以前では、元本を分割した後、毎月の請求で消費税を計算していました。しかし工事費の発生は「1回の取引」なので、毎月計算することにしてしまうのは実はちょっと変です。

そこで、工事費の消費税計算については枠を完全に分けてしまうことにしました*5

工事費分割時の消費税請求イメージ

適格返還請求書

適格請求書を交付した後、返金等を行い請求額が減ったとみなせるような場合*6には「お金を返したよ」という書面を交付することが、あわせて義務づけられています*7。いわば請求書のパッチですね。 このパッチみたいな書面にも「適格返還請求書」という長い名前がついており要件が定められています。「適格請求書」と紛らわしいですが、別物です。 返金業務の一部はシステムを介していたため、適格返還請求書を提供するためのシステム改修を行いました。

債権譲渡・債権譲受

他社が運営するサービスの料金を当社から(ISP料金と合算等して)お客様へ提供することがあります*8。 このとき「誰が役務(サービス)提供したのか」が適格請求書を発行する上で重要になります。原則として:

  • 他社サービスを仕入れて当社サービスとして役務提供する場合は、当社の発行する(=当社のT番号の記載された)適格請求書に、そのサービスの消費税も載せます。
  • 他社が役務提供するサービスを当社から請求する場合は、当社の発行する適格請求書には、税込価格を課税対象外の枠で載せます*9

他社サービスの請求パターンごとの違い:仕入と債権譲受

後者を債権譲渡債権譲受と呼ぶことがあります。役務提供する(この例では他社の)立場からは「債権譲渡」、その対価をお客様へ請求する(この例では当社の)立場からは「債権譲受」となります。

インボイス制度が始まるまでは、債権譲受のケースであっても、当社の請求書に消費税を記載する場合がありました。 このような場合、役務提供する他社から税込の請求額が当社へ通知されるので、本体価格を割り戻して当社の消費税計算の方式に適合する形式で改めて計算してお客様へ請求していました。 すると、お客様へ請求する金額と、他社へ支払う金額との間に、端数のずれが発生してしまうことがあります。精算はこの端数を織り込む業務となり*10、手間がかかります*11。 債権譲受の相対他社ごとにこのような事情があり、業務を複雑化する温床のひとつとなっていました。

債権譲受分を課税請求する際の端数ずれ

インボイス制度下においては、当社の請求書に債権譲受分の消費税を記載する必要がなくなるので、端数のずれも発生しません。このときばかりは、インボイス制度の素晴らしさを感じずにはいられませんでした。

媒介者交付特例

このように債権譲渡・債権譲受での消費税は役務提供者の請求書で取り扱うのがインボイス制度下における原則ではあるのですが、請求書の項目だけでなくやりとりの仕方も大きく変わってしまい手間がかかるので、現実的でない場合もあります*12。 役務提供者ではないが対価をお客様へ請求する立場で、消費税を記載した適格請求書を発行することも可能で、媒介者交付特例と呼ばれています。 条件を満たす必要がありますが、これを適用できれば諸々効果的になる場合があります。

債権譲渡と媒介者交付特例

朝日ネットは複数の業者と提携してサービスの提供や請求を行っています。その個別の提携内容ごとに、これは仕入だ、債権譲渡・債権譲受だ、あれは媒介者交付特例が適用できそうだ、それは無理そうだ、データの授受はどう変わる、等の検討や調整を、各部門と協力してしらみつぶしに解決していきました。

おわりに

こうしてあちらこちらを改修しながら、シンプルにできることはしていく、そんなインボイス制度対応がひとまず落ち着きました。

対応を通じて、業務とのつながりを見渡しながらシステムの全体最適を目指す仲間がもっとほしい、と何度も思いました。 技術を正しく使いこなす基礎を大切にしながら、その先をも見据えたプロフェッショナルとして、私たちと一緒に頑張ってみませんか。

採用情報

朝日ネットでは新卒採用・キャリア採用を行っております。

新卒採用 キャリア採用|株式会社朝日ネット

*1:全ての事業者がこの方法で仕入税額控除を受けるとは限らず、簡易課税制度のように「みなし仕入率」で算出するケースや、そもそも消費税の納税義務が免除されるケース等もあるようですが、いずれもこの記事では触れません。

*2:請求書に限らず、インボイス制度対応における法的な要請の全体像は国税庁の資料や、税務署へ(経理部門から)問い合わせて確認を進めました。

*3:T番号を得るには、税務署への申請手続きが必要です。T番号を持っていることは、「適格請求書を発行していいよ」と税務署のお墨付きをもらえていることを意味します。詳細は国税庁の説明を参照してください。

*4:2024年現在では大半の商品が10%税率での請求になりますが、課税対象外の商品のほか、消費税率変更の際に月遅れ請求の商品を旧税率で請求する場合や、将来的に軽減税率の対象になる商品を取り扱う余地を残したいので、複数の税率が同時に存在することを考慮した仕様で作ります。

*5:工事費の仕入税額控除は、毎月の請求書とは別に提供する「分割計算書」で行っていただき、毎月の請求書には税込額を分割して記載(ただし課税対象外の枠なので二重に消費税を計上することはない)という建て付けです。

*6:ここではくだけた書き方をしていますが、同様の対応を担当する立場の方など、正確な定義が必要な際は国税庁の資料をあたってください。

*7:正直ややこしいのですが、払った消費税が返ってきたら仕入税額控除にも反映する必要があるはずですから、そこをきっちりやるためのルールなのでしょう。

*8:逆に、当社の運営するサービスを他社から請求することもあります。「当社」と「他社」を入れ替えた同様の対応が発生します。

*9:このケースでは、お客様は当社に消費税込の金額を払いますが、当社の適格請求書を用いて仕入税額控除を受けることはできません。役務提供する他社が発行する適格請求書を別途取得いただいて、仕入税額控除を受けることになります。当社は役務提供する他社にそのまま消費税込の金額を支払い、役務提供する他社が納税します。文字で書くとちょっとややこしいのですが、「他社サービスの請求パターンごとの違い:仕入と債権譲受」の図を参照いただくのがおすすめです。

*10:他社との精算が発生する場合は、検証(この例では他社が当社へ請求する金額と当社がお客様へ請求する金額との一致確認)をします。完全一致で確認できるのがベストですが、端数のずれを織り込む場合は「差額が~円以下ならOK」のような恣意的な基準を設けざるを得なくなります。

*11:検証がうまくいかない場合は差額を用いて原因を探すことがありますが、差額が端数のずれを含んでいると検索が難しくなります。

*12:社会全体で徹底しようとすると膨大な手間がかかってしまいそうです。個人的にはお金の流れをコントロールするための仕組みにコストをかけすぎると本末転倒のように筆者は思っています。